いよいよ、来年春に入園するための保育園探し、いわゆる“保活”の真っ最中の方も多い時期でしょうか。
お子さんが日中医療的なケアを要するため、一般の保育園からは受け入れが難しいと言われた親御さんはいませんか?
障害児のお母さんが子どもを保育園に預けて働くなんて?と言われた親御さんはいませんか?
特に医療的なケアを必要とする障害児や、重症心身障害児の親御さんは、保活ラインにも立てていないといった現状があります。
フローレンスでは障害があっても障害がなくてもすべてのお子さんが保育を受けられる社会の実現を目指して、5年前より「障害児保育園ヘレン」、その翌年からは「障害児訪問保育アニー」を運営しています。
今回は、まだ知らない人も多い「障害児保育園ヘレン」の保育現場をご紹介します。
実は、ヘレンは、スタッフが工夫を凝らして様々なアイテムを利用し、子どもたちの発達を促す保育と療育をハイブリッドで行っている施設なのです。
日本初の障害児保育施設は一体どんな場所で、どんなアイテムを使って、どんな保育をしているのでしょうか?!
障害児保育園ヘレン経堂の中村園長(当時)に話を伺いつつ、現場に密着してみましょう。
障害児保育園ヘレン経堂はどこにある?
障害児保育園ヘレン経堂は、経堂駅から歩いて徒歩8分ほどの閑静な住宅街の中にある、世田谷区立子ども・子育て総合センターの2階にあります。
エレベータに乗って2階に上がり、一時預かり施設「カムパネルラ経堂」と同じ入口からインターホンを押して入室します。
お邪魔します!
朝の会から一日がスタート
ヘレン経堂では重症心身障害児が集まる「れんげ組」とそれ以外の障害児が集まる「たんぽぽ組」の2組があります。
れんげ組に入ると、朝の会の真っ最中!これは、一般の保育園の朝の風景とまったく同じですね。
園児たちは姿勢保持椅子に座って名前を呼ばれるのを待ちます。
「◯◯くーん!」と先生が名前を呼ぶと、機械から「はーい」という声がします。
ん!?これはなに!?
中村園長「重心の子どもたちの僅かな動きを利用したスイッチを使ってコミュニケーションをしています。持ち手にはバイブレーションが入っていて、持ち手を握ると振動し、本体から「はーい」と声がします。
自分の身体が動いた→振動する→「はーい」という声がするということで自分の身体の動きを確認できるようになっています。」
――へぇ~!すごいですね!でもこれ、市販されているものではないですよね…?
中村園長「はい。これは先生が子どもたち一人ひとりの動きを考えながら、先生が改造したり、『おもちゃ病院』というところで改造してもらったりしたおもちゃなんです。」
――ほかにはどんなおもちゃがあるんですか?
中村園長「これは先生の手作りおもちゃですね。洗濯板に穴を開けて、ゴムテグスにカラフルなビーズを通してあります。重心児たちのできる小さな動作で音が鳴るおもちゃです。それぞれができる動きをしたときに音がなるようになっています。」
中村園長「他にもハンドベルやチェーンがぶら下がったおもちゃもあります」
――この右にある筒状のものは…?
中村園長「中にキラキラしたスパンコールが入っていて、回すとメロディが鳴るようになっています。でも、こういった療育のおもちゃって海外のものがほとんどなんです。そして高いんです…」
――わぁ、ほんとだ…。これはアメリカ製なんですね。
子どもたちの五感を刺激する療育
朝の会が終わると、園児たちは一旦床に敷いた柔らかいマットの上に横になります。
――ずっと姿勢保持椅子に座っているわけではないんですね。
姿勢保持椅子。子どもの成長に従って徐々に大きいサイズに乗り換えていく
中村園長「重心の子どもたちにとって、姿勢を維持することはとても大切なこと。でも、同じ姿勢を保つのは、子どもたちにとっては大変なことでもあるので、座位保持椅子に座る時間は朝の会や活動の時間などと決めています。」
――なるほど!ではあの低いのは…?
中村園長「あれはクッションチェア(室内座位保持装置)ですね。遊びの時間や食事の時間にも使います。この座椅子と、傾きを調整する斜めクッションと合わせて10万円かな…」
――じゅ!10万円!!専門的なものになると急に値段が上がるんですね…!
中村園長「そうそう。朝の会に使っていた椅子も、家用と園用とで、みなさん2つ持っています。自治体によっては補助もあるみたいだけど…」
――障害児を育てることになったのは、誰のせいでもないのに、生まれた瞬間からお金が途方もなくかかるんですね……。
ちなみに、姿勢保持椅子は園に置いておくとして、他にはどんなものを親御さんたちに持ってきていただくんですか?
中村園長「たんを吸うための吸引器や、経管栄養の子たちは経管栄養のための道具、足の装具をつけている子は装具…だいたい皆さん3泊4日くらいの荷物を毎日持って来ています」
――3泊4日!みんなそれぞれ必要な道具や機器も違うために、そのような量になってしまうんですね…。
と、お話を伺っているうちに、保育室の中には蚊帳が張られました。
今は11月…蚊が多い季節ではないはずなのに、なぜ…?
中村園長「いまからスヌーズレンを使った療育をします!」
※スヌーズレンとは…
光と音で子どもの五感を優しく刺激してくれて、リラックスを促す装置。
中村園長「いまは紅葉をテーマにした映像と合わせていて、蚊帳がスクリーン代わりになってすごくいいんです!ちなみにこの蚊帳は、不要になったからと言ってパートの先生からご寄付いただいたものなんです」
――おお~!この蚊帳に蚊帳本来の機能以外の活躍の場があったなんて……先生たちのアイデアもすごいですね!
ヘレン経堂にあるスヌーズレンは、ドーム状の光源装置と、バブルタワー(水の入った筒の機械)。スイッチを押すと光が回転しながら空間を照らします。
園児たちも横になりながら、音楽と映像、そしてスヌーズレンの光の変化を楽しみます。
このスヌーズレンを使うことによってリラックスした環境を作り、体の緊張をほぐしていきます。
お隣のたんぽぽ組のお子さんもスヌーズレンの活動が気になったようで、途中から参加。
ただ音楽と映像をかけ流すだけではなく、子どもたちの反応を見ながら光の装置を操作したり、抱っこしたりと、先生たちの真剣ながらも穏やかな表情がステキでした。
なお、こちらのスヌーズレンは購入費用をジョンソン・エンド・ジョンソン社会貢献委員会さんからのご寄付です。
園児たちの給食タイム
お昼の時間になりました。
障害児保育園ヘレンでは給食はなく、それぞれのお子さんの発達に合わせた食事内容です。
胃ろうのお子さんは、かかりつけの先生から指示されている胃ろう食や、それぞれのご家庭で手作りされた料理のミキサー食など。口から食べられるお子さんも、それぞれ食べやすいように工夫されていて、中にはお箸で上手に食べられるお子さんもいます。
さらには食事用の椅子も一工夫。
左側の椅子は、それぞれのお子さんが座りやすいように、セミオーダーで作られており、高さ、サイズが調整できる椅子です。
不足分は、既成品の椅子を加工!右側の椅子のように、股の部分にクッションを作って対応します。
医療的ケア児とひとくくりに言っても、実際のお子さんは千差万別。一人ひとりの発達に応じて、先生たちも食事の介助につきます。
障害児保育園の送迎バス・ヘレン号
障害児保育園ヘレン経堂には、送迎バスのヘレン号が2台常駐しています。
こちらのバスは西友さんにご寄付頂いたものなんです!
マスコットキャラクターである気球のヘレンちゃんが大空を飛んでいく図案がデザインされています。
そして、もう一台は日本財団さんからご寄付いただきました!
西友さん、日本財団さん、いつも温かいご支援ありがとうございます!
23区内の街から街へ、安全運転で駆け巡り、『障害児保育園ヘレン』の名を都内に広げています!
様々な方が障害児家庭を応援しています
そのほかにも、ロールスクリーンは株式会社サンゲツ様より、
斜めのクッションを始めとした備品はコストコホールセールジャパン株式会社様の寄付などでいただきました。
他にも、園児のおばあちゃんが寄付してくださった手押し車の遊具など、地域社会の温かい眼差しに支えられながら子どもたちが育つ現場です。
障害児保育園ヘレンは、子どもたち一人ひとりの発達に寄り添い、その子にあった療育と保育を提供します。
その中で、子どもたちは主治医も親御さんも予想していなかった発達をしていきます。
一生胃ろうで過ごすだろうと言われていたお子さんも、口からごはんが食べられるようになって、認可保育園に転園していったという事例はめずらしくありません。
療育、保育、看護師といった専門職のチームが各子どもにあわせたオーダーメイドのプログラムを集団保育の中で計画し、一日一日こどもの育ちを発見して、親御さんと共有していきます。
子どもは、社会の中でたくさんのお友達や親以外の大人と関わることで、自ら育つ力を発揮します。
それは、障害のある子どもも、ない子どもも、まったく変わらないのではないでしょうか?
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