医療的ケアがあることも、一つの個性。神戸で芽吹く「あたりまえの日常」を支えるインクルーシブ保育の真髄【視察レポート】
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医療的ケアがあることも、一つの個性。神戸で芽吹く「あたりまえの日常」を支えるインクルーシブ保育の真髄【視察レポート】

医療的ケア児が保育園に通うことは、本人や家族が社会とのつながりを持つうえで極めて重要ですが、多くの自治体や事業所にとって体制の整備は大きな課題となっています。

そんな中、神戸市の特定非営利活動法人こどもコミュニティケア(以下、こどもコミュニティケア)では、長年に渡り医療的ケア児を含むインクルーシブ保育を実践しています。
2025年10月、フローレンスのスタッフは神戸を訪れ、こどもコミュニティケアが運営する各施設を視察し、代表理事の末永美紀子さんからお話を伺いました。わたしたちがこどもコミュニティケアの現場から学んだ「真のインクルージョン」の姿と、温かくしなやかに工夫された保育の様子をレポートします。

特定非営利活動法人こどもコミュニティケア

2004年に始動し、2008年NPO法人化。現在は神戸市で3施設を運営。
看護師や保育士などの職域を越えたチーム体制を軸に、医療的ケア児を含むこどもたちがともに育ち合う「インクルーシブ保育(共生保育)」を実践。さまざまな状況や背景を持つこどもたちが、よりいきいきと、より健やかに、成長できる地域社会の実現を目指している。

末永美紀子(すえながみきこ)さん

特定非営利活動法人こどもコミュニティケア代表理事。
看護師・保健師。大学病院やこども病院での病棟勤務を経て、2004年に前身となる認可外保育施設を自宅で開設し、同法人を創設。次世代育成や経営学の修得に注力する傍ら、調査や研究を通じてインクルーシブ保育の必要性を社会へ発信し続けている。

「こどもを枠に当てはめる」から「環境をこどもに合わせる」へ

現在、こどもコミュニティケアが運営する「舞多聞よつば保育園」では定員30人のうち6人、「ちっちゃなこども園ふたば」では定員12人のうち5人の医療的ケア児が通っています。それを支えるのが「インクルージョン」の視点です。真の「インクルージョン」とは多数派に馴染めないこどもをそこに追いつかせようとすることではない、と末永さんは語ります。この考え方を理解するために、「インクルージョン」に至る4つの段階について説明してくださいました。

1.エクスクルージョン(排除)
「集団保育に馴染まない」といった理由で入園を断ったり、就学猶予としたりすることを指します。こどもを教育や保育の枠組みそのものから閉め出してしまう状態です。

2.セグリゲーション(分離)
障害のあるこどもを、定型発達のこどもたちの集団と分け、特別支援学校や入所施設といった別の場所で過ごさせる政策や体制を指します。場所を分けることで「分断」が生じている状態です。

3. インテグレーション(統合)
カリキュラムはあくまで「多数派」向けに統一されたものを用意し、そこに馴染めないこどもには加配(補助スタッフ)や補助具を付けて、なんとか周りに追いつかせようとする考え方です。
この段階では、既存の枠組みにこどもを「当てはめる」発想が強く、「医療的ケア児の”受け入れ”」という言葉は、この「インテグレーション」に向けた言葉のように感じると仰っていました。

4. インクルージョン(包摂)
障害の有無にかかわらず、同じクラスで縁があったすべてのこどもたちにとって、遊びや学びが豊かになるよう環境側を整えることです。
こどもコミュニティケアでは、こどもを枠に「当てはめる」のではなく、個性あるこどもたちみんなの状況に応じて、毎年、毎月、園や環境の側がしなやかに変容する姿勢を大切にしていました。

【理念を体現する環境設計】


~”みんな”が遊べる大きな土管~
園庭の大きな土管は、車椅子を使うお子さんでもみんなと一緒に潜り込めるサイズ。環境を調整することで、誰も遊びから排除されない空間を具現化しています。

【理念を体現する環境設計】


~同じ空間を共有する、開かれたベッド配置~
人工呼吸器などの医療デバイスを使うお子さんだと、日中の多くを横になって過ごす場合があります。そのお子さんのベッドは、個別対応の別室ではなくみんなで過ごす部屋の真ん中に配置され、一緒にいる環境が整えられています。

職種の壁を溶かす「ワンチーム」の体制

「インクルージョン」の姿勢を支えるのが、スタッフ一人ひとりのあり方です。こどもコミュニティケアでは、看護師や保育士といった職種で業務を分けない、独自のチーム作りが行われていました。

「チームこどもコミュニティケア」:
園ごとではなく法人一括採用を行い、資格や職歴、勤務形態などの属性で業務を分断しません。全員が共通のエプロンを身にまとい、職種を問わずケアスタッフとして「~先生」ではなく「~さん」と呼び合います。毎日のショートミーティングには、事務職員や調理スタッフ含め、こどもの見守り担当以外の出勤している全員が参加。正規職やパートなどの雇用形態にかかわらず全員が輪番で記録や司会を務め、チームに関わるあらゆることを話し合います。
行事等の係活動も、職種や働き方の多様性を超えて協働できる場として、毎年さまざまな役割にチャレンジしています。小さな工夫をたくさん積み重ねることで、看護師が医療的ケアに関するすべての業務(事務や医療的ケア関連の消耗品発注、器具の片付けなども)を抱え込んだり、保育士が医療的ケア児への関わりを遠慮したりすることを防ぎ、みんなでこどもみんなを保育する文化が根付いています。

「先輩」はたくさんいる:
かかりつけ病院の主治医や看護師、そして何より毎日その子の育児をする保護者も「医療的ケアの先輩」です。保護者とは「受け入れるー受け入れてもらう」の関係ではなく、ともにこどもを育てる伴走者としての信頼関係を結んでいます。
また、ケアスタッフ間でも、職種にかかわらずお互いに謙虚に学び合う文化を大切にしています。

【理念を体現する環境設計】

~多職種協働を生む「立ち仕事」の事務室~

施設内の職員の事務室は、元病院勤務の末永さんのアイデアで、看護ステーションを模した「立ち仕事スタイル」になっています。スタッフ間の連携をスムーズにする工夫が見られました。

「ケア」を日常に溶け込ませる

こどもコミュニティケアの現場の運営の基盤は、「必要な時に、必要なケアを、必要なひとに届ける」というシンプルで誠実な視点です。
診断名などの表面的な情報に捉われず、その子の体調や生活背景にある多様な要因を丁寧に紐解き、いつ、誰が、何をすべきか——「最適なケア」を具体化します。この柔軟な対応が、日常の保育を支える揺るぎない土台です。

数値化できないリスクの評価:
障害名や診断名だけでリスクは決まりません。病状、年齢、体重、主治医との距離、保護者の希望などを聞き取り、アセスメントします。多様な要因によってリスクの大きさは変わりますが、それはつまり、リスクの大きさを変えることもできるということです。
リスクは固定されたものではなく、環境や体制次第で小さくできるという前向きな発想が、インクルーシブ保育の可能性を広げています。

「こどもに必要なケア」の考え方:
医療的ケア児でも、そうでないこどもでも、誰でも個別の配慮やケアが必要になる時があります。鼻を拭くことと鼻の吸引をすること、スプーンで食事介助することと経管栄養で注入すること。医療的ケアを区別すべき特別なことではなく、こどもたちにとって必要なケアとして同列に位置づけ、声かけとともに生活の一部として統合しています。

インクルーシブ保育の未来に向けて

今回の視察を通じてわたしたちが最も感銘を受けたのは、「枠に当てはめる」のではなく「どうすればともに過ごせるか」を考え、園側が柔軟に変容していく姿勢です。末永さんの「医療的ケア児の子育てを、特別な苦労ではなく、誰もが経験する『あたりまえの苦労』の範囲内に収めたい。そんな支援や保育をしたい。」という言葉は、わたしたちの心に深く刻まれました。

こどもコミュニティケアでは、失敗を恐れず先に進む「ファーストペンギン」のように、自治体とも対話を重ね、試行錯誤しながら長年医療的ケア児も保育してきました。「医療的ケア児だから」と区別するのではなく、その子自身を大切にする。こどもコミュニティケアの実践は、誰もがあたりまえの日常をあたりまえに過ごせる社会に向けた希望だと感じました。

お忙しい中見学をさせていただき、本当にありがとうございました!

こどもコミュニティケア公式HPはこちら:https://children-cc.org/


こどもコミュニティケアのように、インクルーシブ保育を実践する皆さんの輪が、全国に広がっていくことをわたしたちは願っています。

https://florence.or.jp/news/84944/
フローレンスでは、医療的ケア児保育に携わる保育士・看護師・自治体職員の皆さんが、現場での工夫や悩みを気軽に相談し、学び合えるオンラインコミュニティ「『医療的ケア児保育』まなびば」を運営しています。

全国の仲間と手を取り合いながら、どこの地域で生まれても、医療的ケア児があたりまえに近所の保育園に通い、友達と一緒に遊び育つ。そんな「新しいあたりまえ」を、皆さんとともに目指していきたいと考えています。

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